1 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:40:28 ID:0Znl/ILg0

  .,、
 (i,)
  |_|

.

2 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:41:34 ID:0Znl/ILg0


 兄さんが事故にあった。

 夜、原付を電柱にぶつけて。
 近くの民家の人がすぐに気付いて通報してくれた。
 他人を巻き込まなかったのが、幸いと言えば幸いだった。
 搬送されるも、意識は戻らぬままに、兄さんは帰らぬ人となった。


 私のケータイには、まだ、兄さんの番号が残っている。

.

3 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:44:03 ID:0Znl/ILg0



   消せない番号のようです



.

4 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:45:44 ID:0Znl/ILg0


 慌ただしい準備期間をどう過ごしたものか、あっという間に通夜になっていた。
 弔問客に頭を下げ、お経を聞き、そして通夜振る舞い。


 (゚、゚トソン


 夏用のセーラー服の少女が、私と両親の所にやって来た。
 兄の後輩ではない筈だ。兄の母校は私の高校で、ブレザーが制服だ。
 少女は、深々と頭を下げた。


(゚、゚トソン「この度は、お悔やみ申し上げます」

('A`)「ご丁寧にありがとうございます」

(゚、゚トソン「私、都村トソンと申します」

川 ゚ -゚)「都村さん」

(゚、゚トソン「はい。――シラネーヨさんと、お付き合いしていました」


 それは、と父さんが言ったきり、絶句する。
 私も母さんも、咄嗟に言葉が出なかった。

.

5 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:47:04 ID:0Znl/ILg0

ξ゚听)ξ「都村……さん」

(゚、゚トソン「はい」

ξ゚听)ξ「……えっと」

(゚、゚トソン「……すみません。突然」

ξ;゚听)ξ「あっ、そうじゃなくて。あ、あの、彼女いるって話は聞いてたんですよ」

(゚、゚トソン「そう――でしたか」

ξ゚听)ξ「ほら、兄さんってちょっと抜けてるじゃないですか。
      今まで着信音なんか変えたことなかった癖に、突然ラブソングなんか使い出して」

川 ゚ -゚)「ああ、ちょうど夕食前だったな」

ξ゚听)ξ「それで問い詰めたら彼女できたって……」

('A`)「連れて来いよ、と言ったんですけどね」

ξ゚听)ξ「『いきなり家族に会わせたら重いだろ』って……本当、変な所で気遣い屋っていうか」

(゚、゚トソン「……」

ξ゚听)ξ「私と同じくらい、ですよね、年。だからその……」

(゚、゚トソン「高三です。私の方も……恥ずかしくて、まだ、家族には紹介してませんでした」

6 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:48:25 ID:0Znl/ILg0


 焦る私たちを後目に、静かに話をしていた都村さんが、肩を震わせた。


::( 、 トソン:「こんな形で――ご挨拶することに、なるなんて」


 俯いて、ごめんなさい、と掠れた声で呟く。
 その肩を母がそっと抱いた。


川 ゚ -゚)「……あなたのことは、聞いていました。
     とても気配りが出来る子だから、よく自分を抑えてしまう、と」

( 、 トソン

川 ゚ -゚)「会ったのは今日が初めてだけど……あなたのような人と出会えて、幸せだったと思う」

川 ゚ -゚)「――あの子と一緒にいてくれて、ありがとう」

( 、 トソン「……ぅ」


 小さな呻き。
 都村さんはまだ、必死に堪えている。

.

7 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:50:00 ID:0Znl/ILg0


ξ )ξ「……馬鹿」

ξ )ξ「兄さんの馬鹿。彼女ほっといて。父さんだって会社休んで、母さんも私も色々準備して」

ξ;凵G)ξ「馬鹿。ばか、ばかばかぁぁっ!」


 ぐすりと父さんが洟をすすり、私の頭を撫でる。


(;、;トソン「ぅ、ぅう、ぅぅあっ」


 つられたように、都村さんから大粒の涙が溢れ出す。
 母さんが都村さんの肩を強く抱く。その手は震えていた。


 私と都村さんは、ひたすら泣いた。
 その大声を咎めるものは、誰ひとりとしていなかった。

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8 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:52:29 ID:0Znl/ILg0

(゚、゚トソン「……すみません」

ξ゚听)ξ「あ、ううん……謝らないで」


 散々泣いた後、父さんと母さんは来てくれた人への応対へ、私たちは隅の方で膝を抱えて話していた。
 都村さんと兄さんが出会ったのは、高二の頃。
 大学のオープンキャンパスだったらしい。


(゚、゚トソン「私が卒業したら挨拶に、って。私がそれまでに心変わりしてもいいように」

ξ゚听)ξ「ほんと妙な所に拘るんだよね、兄さん。ていうかそれ、ムカつかなかった?」

(゚、゚トソン「まあ、多少は」

ξ゚听)ξ「気の使い方間違ってんのよ。のんびり屋だし」

(゚、゚トソン「私はよく固すぎると言われるので、丁度いいんです」

ξ゚听)ξ「そっか」

(゚、゚トソン「……あの、明日のお葬式のことなんですが」

ξ゚听)ξ「うん、時間あったら来てくれると嬉しい」

(゚、゚トソン「はい。両親は今日、どうしても外せない用事があったのですが……明日は来るので、ご挨拶させてください」

ξ゚听)ξ「分かった。父さんたちに伝えとくね。ありがとう」

(゚、゚トソン「こちらこそ」


 都村さんと二人、兄さんの話をして、悪口言って、笑って、少しだけ泣いた。
 もっと早く会ってたら、兄さんの弱みだとか、進路の話だとか、沢山できたのに。
 やっぱり、兄さんは馬鹿だ。

.

9 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:53:42 ID:0Znl/ILg0

川 ゚ -゚)「都村さん、今日はありがとう」

(゚、゚トソン「いえ」

川 ゚ -゚)「今日はもう遅いから、お帰りなさい。旦那が送っていくから」

(゚、゚トソン「そこまでご迷惑をおかけするわけには」

川 ゚ -゚)「娘と同じ年の子を、夜中に一人で帰すわけにはいかない。
     シラネーヨの代わりをさせてくれないかな」

(゚、゚トソン「……はい」

(-、-トソン「ありがとうございます」


 都村さんはまた深く頭を下げて、父さんの車で帰っていった。

.

10 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:55:34 ID:0Znl/ILg0


 翌日、都村さんはご両親と共に参列した。

 出棺の前に、釘を打つ。
 がつん、がつん。
 一打、打たれる毎に、兄さんは閉じ込められていく。
 がつん。
 鈍い音が、嫌で嫌で堪らなかった。

11 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:57:45 ID:0Znl/ILg0


 「お別れです」


 火葬場の人が、ゆっくりと棺を大きな金属の中へ納めていく。
 兄さん。
 そんな狭い所に、行かせないで。
 すすり泣く声が、微かに聞こえる。


ξ゚听)ξ「兄さん」


 ふらりと前に出た私を、母さんがそっと制す。
 ――閉まってしまう。


 重い音が、全身に響いた。
 私たちと兄さんを断絶する、冷たい音。
 変なの、これから兄さんは焼かれるのに。冗談じゃないくらい熱いのにね。


ξ )ξ「……兄さん」


 もう、――――


.

12 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 16:59:24 ID:0Znl/ILg0


 そして帰ってきたのは、白い骨。
 とても綺麗に焼けてますよ、と火葬場の人が言う。
 父さんと母さんが、箸から箸へ骨を渡す。
 私は都村さんに渡した。
 所々に、一緒にいれた物の残骸があった。


 足から入れて、頭蓋骨。
 潰される。
 最後に、喉仏。
 ごり、ごり、ばきり。
 蓋が、締められた。


.

13 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:01:40 ID:0Znl/ILg0


 「娘が大変お世話になりました」
 「いえ、こちらこそ息子と親しくして頂いて」

 都村さんと私の両親たちがそれぞれ頭を下げている。
 私は兄さんの遺影を抱えてぼんやりしていた。


 【( ´ー`)】


 見れば見るほど、間抜け面だと思う。

14 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:02:33 ID:0Znl/ILg0


(゚、゚トソン「あの……」

ξ゚听)ξ「あっ、は、はいっ」


 後ろから声を掛けられて、反射的に敬語になってしまった。


(゚、゚トソン「火葬場まで来させてくれて、ありがとうございました」

ξ゚听)ξ「ううん。絶対、その方がいいもの。
      ……ねえ、敬語なくていいよ。同い年じゃない」

(゚、゚トソン「これは、癖みたいなものなので……」

(-、-トソン

(゚、゚トソン「その、よかったら……最後に、ツンさんって呼んでもいいですか」

ξ゚听)ξ「だめ」

(゚、゚トソン「あ、そうですよね、すみません……図々しいことを」

ξ゚听)ξ「呼び捨てか……そうね、ちゃん付けなら許してあげる」

(゚、゚トソン「え」

ξ゚听)ξ「私もトソンって呼ぶから」

(゚、゚トソン「……」

ξ゚听)ξ「……あのさ、トソンがよかったらなんだけど、これからまた話できないかなって」

.

15 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:04:09 ID:0Znl/ILg0

 彼氏の家族、というのは凄く微妙な立ち位置だし、昨日が初対面だ。
 でも、私は兄さんの話がしたかった。
 昨日話して、都村トソンという人をもっと知りたくなった。
 有り体に言えば、友達になりたくなったのだ。


(゚、゚トソン「……」

ξ゚听)ξ「……」

ξ;゚听)ξ「……あの、ごめん、やっぱ忘れて」

(゚、゚トソン「だめです」

ξ゚听)ξ「え」

(゚、゚トソン「……LINEと赤外線、どっちがいいですか?」

ξ゚听)ξ「……私スマホじゃないから、赤外線」

(゚、゚トソン「はい。じゃあ送ります」

ξ゚听)ξ「うん。……あ、来た。じゃこっちも」

(゚、゚トソン「はい。……受け取りました」

ξ゚听)ξ「……」

(゚ー゚トソン「ありがとうございます。ツン、ちゃん」

ξ゚ー゚)ξ「こっちこそ。またね、トソン」

.

16 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:05:26 ID:0Znl/ILg0


 それからトソンとは、学校帰りに会ったり、休日家に行き来するようになった。
 うちに来れば、必ずトソンは骨壺が安置された仏壇に手を合わせる。
 時には長く、静かに目を閉じて。

 そうして、四十九日はあっという間に過ぎた。


.

17 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:06:31 ID:0Znl/ILg0


川 ゚ -゚)「何だかこの頃、家鳴りがするな」

ξ゚听)ξ「そう?」

川 ゚ -゚)「夜になると、ぴしぴし言っている」


 血塗れの兄さん。
 綺麗にされて棺に横たわる兄さん。
 身体の底の底まで響き渡る、重い音。
 骨の砕ける乾いた音。


(;'A`)「った!」

ξ゚听)ξ「ちょ、父さん何してるのよ」

('A`)「や、足が滑ってな……」

川 ゚ -゚)「大丈夫か?」

('A`)「あー、ちょっと打ったけど大丈夫」


 小さな骨壺に納まった兄さん。
 本当にそこにいるの?
 兄さん。
 ちっとも実感が、沸かないよ。

.

18 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:08:07 ID:0Znl/ILg0


 トソンとの待ち合わせで、お決まりになった公園。トソンを待つ間、ケータイを弄る。
 着信履歴を幾つか消していく。
 ひとつ、ふたつ、みっつ、
 そして最後に一つだけ、履歴が残る。


ξ゚听)ξ「……」


 どうしようもない、私の後悔の証。


(゚、゚トソン「ネーヨさんからの着信、ですか」

ξ;゚听)ξ「のうっふぁ!?」

(゚、゚トソン「こんにちは」

ξ;゚听)ξ「と、トソンあんたねえ、後ろから声掛けんの止めてよ! 気配ないわよあんた!」

(゚、゚トソン「私が来る方向に背を向けているんですから、仕方ないでしょう」

ξ゚听)ξ「ええー……」


 そんなもの前に回ればいいのに。
 最近、これがトソンなりのコミュニケーションの取り方だとは分かってきたけど、心臓に悪いったらありゃしない。

.

19 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:09:08 ID:0Znl/ILg0

(゚、゚トソン「……ツンちゃんの所にも、電話あったんですね」

ξ゚听)ξ「うん……って、トソンの所にも?」

(゚、゚トソン「はい」

ξ゚听)ξ「そっか。何て言ってた?」

(゚、゚トソン「夜中に突然、『暫くそっちいけないけど、ごめんな』と。
     どうしたのか訊く前に、電波が悪くなったみたいで切れてしまったんですが」

ξ゚听)ξ「……何それ?」

(゚、゚トソン「まるで、事故に遭うの分かってたみたいで……どう言ったらいいか迷って、今まで言えませんでした」


 ごめんなさい、とトソンは頭を下げる。
 慌てて身体を起こさせた。

20 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:10:39 ID:0Znl/ILg0

ξ゚听)ξ「ううん、責めてるんじゃないの。
      ……でも、流石に偶然よね。事故起こすなんて分かってるわけないわ」

(゚、゚トソン「そう、ですよね。ええ、そうですね。
     ツンちゃんの方は、何て?」

ξ゚听)ξ「……」

(゚、゚トソン「ツンちゃん?」

ξ゚听)ξ「私、とれなかったの」


 ケータイの画面をトソンに見せる。
 番号の下に、緑で縁取られた『不在』の文字。
 一瞬、トソンが息を呑んだのが分かった。


ξ゚听)ξ「マナーモード解除し忘れてて。
      ……病院行く時、ようやく気付いた」

(゚、゚トソン「そう……だったんですか」

ξ゚听)ξ「事故の直前だったのよね。私に何を言おうとしてたのか」


 それが二度と分からない。
 いつも通り、くだらないことだったのか。それともトソンのように、何か不思議な言葉だったのか。


ξ゚听)ξ「何か、消せないの」


 それほど着信が多いわけではないけれど、流れてしまわないように、小まめに消している。
 番号があったって、どうせ繋がりはしないのに。

.

21 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:11:57 ID:0Znl/ILg0


(゚、゚トソン「私も……消せません」


 ぽつりとトソンが呟いた。
 自分のスマホを取り出して、スクロールしていく。はたと、その手が止まった。


(゚、゚トソン「……ツンちゃん。事故って、日付変わってからですよね?」

ξ゚听)ξ「え? 110番があったのは12時になる前よ」

(゚、゚トソン「ならネーヨさん、事故直後は意識あったんですか?」

ξ゚听)ξ「いえ、事故から一度も意識は取り戻さなかったわ」

(゚、゚トソン「っ……じゃあ」


 トソンが、スマホの画面を見せる。『ネーヨさん』で登録された、着信履歴。


(゚、゚;トソン「どうして、日付が変わった後に、ネーヨさんから電話が掛かってきてるんですか……!?」


 トソンのスマホを、半ば奪うようにして見つめる。
 『0:17』『ネーヨさん』

.

22 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:13:33 ID:0Znl/ILg0

ξ;゚听)ξ「……嘘。この時間は、もう病院に搬送されてた筈よ」

ξ゚听)ξ「と、時計の間違いじゃない? ほら、ちょっと狂っちゃったとか」

(゚、゚トソン「電波時計で毎日自動セットされますから、それはありません」

ξ゚听)ξ「で、でも……」

(゚、゚トソン「ネーヨさんの声……確かにネーヨさんの声でしたっ」

ξ;゚听)ξ「でもっ!」


 上ずった大声に、周りの人から視線が刺さる。
 口を押えて、何とか声を潜める。


ξ;゚听)ξ「兄さんのケータイ、事故の時に、壊れたのに……!」

(゚、゚;トソン「――!?」


 ケータイとスマホを見比べる。時間に間違いはない。
 私の方は、まだ事故の直前だと言える。でも、トソンの方は、明らかに事故の後なのだ。
 壊れた筈のケータイから電話が掛かり、意識のなかった筈の兄さんが喋る。

 突如として沸いた怪奇現象に、私たちは揃って言葉を失った。

.

23 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:14:58 ID:0Znl/ILg0


 これまで幽霊なんて信じてこなかった。
 ちょっとした怪談や肝試しくらいはするけど、皆で秘密を共有するのが楽しいだけだ。
 けれど、けれど。

 母さんが聞いた家鳴り。――ぴしりぴしり、廊下を歩く音だったら?
 父さんが階段で足を滑らせた何か。――誰かの手だったら?


ξ゚听)ξ「……」


 仏壇に活けられた花が、はらりと落ちる。
 今朝、まだ鮮やかな色だったのに、萎れて茶色くなっている。


ξ゚听)ξ「……兄さん」


 実感の沸かない、死。
 それは――まだ、そこにいるからなの?



 その日を境に――まるで私が気付くのを待っていたみたいに――怪奇現象は、加速し始めた。


.

24 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:16:52 ID:0Znl/ILg0


 父さんが、今度は腕に怪我をした。
 家の中で、地震じゃないのに物が震える。
 突然、空気が冷え冷えとする。
 位牌が倒れる。


川 ゚ -゚)「……どうしたんだろうな、この頃」

('A`)「気にはなるけど、あまり気にし過ぎない方がいいよ」

川 ゚ -゚)「そうだな。私たちが動揺していたら、ツンに心配かけてしまう」

('A`)「シラネーヨのことがあったばかりだし、受験もあるし……いつも通りにしてよう」

川 ゚ -゚)「ああ。……気休めに、お札でも貰ってくるか」


 結局、父さんと母さんに、トソンへの電話の件は言えなかった。
 私を気遣ってくれる二人に、私も心配をかけたくなかった。

 学校帰り、トソンとの待ち合わせに行く。
 今、電話のことを共有できるのは、トソンだけだった。それはトソンも同じで、会う頻度は増えた。
 家に起こる現象はどうしても話さずにはいられなかった。
 トソンの方にも似た現象が起こっているらしい。そして、結局黙り込む。
 兄さんの電話。
 共有している筈の話題は、出せなかった。

.

25 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:18:33 ID:0Znl/ILg0


ξ゚听)ξ「……遅いなぁ」


 それでも待ち合わせは続ける。
 今日は、もう30分は待っている。時間に折り目正しいトソンは、私よりも先に着いていることの方が多い。
 遅れる時も、ちゃんと連絡をくれるのに、今日はそれもなかった。
 メールしようとケータイを取りだした時、ちょうど着信が入る。――トソンだ。


ξ゚听)ξ「もしもし、トソン?」

     『もしもし。すみません、連絡が遅くなって』

ξ゚听)ξ「それはいいけど、どうしたの?」

     『実は、ちょっと捻挫してしまって』

ξ;゚听)ξ「え、だ、大丈夫なの? っていうか今どこ?」

     『今、外来で――』

ξ゚听)ξ「――」


 トソンの告げた病院は、兄さんが搬送された病院だった。
 
.

26 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:19:49 ID:0Znl/ILg0

(゚、゚トソン「公園に向かう途中、何かにつまづいて」

ξ゚听)ξ「それで足を捻挫しちゃったの?」

(゚、゚トソン「はい。……左手を掴まれて、そっちもちょっと捻りかけました」

ξ゚听)ξ「……なにか、に?」

(゚、゚トソン「……はい」


 白い包帯を巻かれた足首。
 制服から覗く手首には、くっきりと痕が残っていた。
 手で掴んだような痕が。

 頻度は少ないけれど、トソンの家でも似たような現象が起こっている。
 その現場にも居合わせた。
 そしてついに、トソン自身にも。


ξ )ξ


 黙り込んだ私に、トソンは声を掛けられずにいる。

.

27 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:21:17 ID:0Znl/ILg0


ξ゚听)ξ「……兄さん、なの?」

(゚、゚;トソン「っツンちゃ、」

ξ゚听)ξ「兄さんなのかな。寂しがり屋だもんね」

(゚、゚;トソン「ツンちゃんっ」

ξ゚听)ξ「でも」

(゚、゚;トソン「……」

ξ )ξ「父さんや……トソンにまで、怪我させるなんて、そんなの」

(゚、゚;トソン「違いますよ! きっと、ただの偶然です」

ξ )ξ「だって、いるんだもの」

(゚、゚#トソン「だって、ネーヨさんはそんなことしません!!」


 キツい声で怒鳴られて、はっと我に返る。
 トソンは泣きそうな顔で、私を見つめていた。


( 、 トソン「そんなことする人じゃないって、ツンちゃんが一番よく、分かってるでしょう……」


 通夜の時の、必死に堪えている顔だった。

 『優しい子だーヨ』
 『うまく自分を表現できない所は、ちょっとツンと似てるかもしれネーヨ』

 ぎゅっと、抱きつく。
 ごめん、と言うと、小さく首を振るのが伝わった。
 暫くそのまま、私たちは抱き合っていた。

.

28 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:22:40 ID:0Znl/ILg0


 兄さん。
 ねえ兄さん。
 そこにいるの?

 兄さん。
 こたえてよ、にいさん。


 異常な現象は、続いた。
 不意に落ちてきた置物にぶつかったり、水が滴っていたり。
 兄さんの部屋から物音がする。
 こつこつ、私の部屋をノックする。


(゚、゚#トソン『だって、ネーヨさんはそんなことしません!!』


 でもね、トソン。
 兄さんがいるなら、そうとしか考えられないの。

.

29 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:24:46 ID:0Znl/ILg0


ξ゚听)ξ白


 兄さんの番号。
 繋がらない、番号。


ξ゚听)ξ白ピッ


 呼び出し音が響く。
 5つ数えた所で、途切れた。


 ざ、ざ、ぁ

    『―――…、』


ξ゚听)ξ白「兄さん……?」


 ざざ、ぎぃ、

    『  ン      ら』


ξ゚听)ξ白「にいさん」


 ぷつ、と、それきり何も聞こえなくなった。


ξ゚听)ξ「……いる、のね」


 手の中のケータイが、ぱちりと静電気の音を立てた。


.

30 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:26:38 ID:0Znl/ILg0


 数日後の休日、トソンが訪ねてきた。
 父さんのお見舞いとお返しに、とのことだったけれど、父さんも母さんも仕事で出ていた。


ξ゚听)ξ「トソンだって捻挫してるのに」

(゚、゚トソン「もう普通に歩けますから、大丈夫ですよ」

ξ゚听)ξ「麦茶でいい?」

(゚、゚トソン「あ、お気遣いなく」


 さらりとそんな言葉を言えるトソンは、本当に大人びている。
 私だったら、いいよ大丈夫、とか言ってしまうだろう。
 麦茶を飲んで一息。


(゚、゚トソン「ご仏壇、いいですか」

ξ゚听)ξ「……うん」


 少し躊躇って、頷いた。
 だって兄さんが。
 いいや、いない、そこにいるわけがない。
 だって、

.

31 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:28:24 ID:0Znl/ILg0


人(-、-トソン


 静かに手を合わせるトソン。
 いつも、何を伝えているのだろう。


 かたり、と部屋の隅から音がした。


(゚、゚トソン「!」


 トソンが目を開ける。
 かた、かた、と音は続く。
 その感覚はどんどん短くなり、部屋全体に響いて震えるまでに大きくなっていく。


(゚、゚;トソン「こ、れは」

ξ;゚听)ξ「い、今までより、強い……」


 がたん、がたん、がたん!


 激しく主張する。
 ここにいる、と。

.

32 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:30:32 ID:0Znl/ILg0

(>、<トソン「きゃっ」


 トソンに倒れた花瓶の水が掛かる。
 その一瞬。
 トソンを掴む手を、見た。


ξ;゚听)ξ「――ッ」


 兄さん。


ξ゚听)ξ「――兄さんっ!」

(゚、゚;トソン「つ、ツンちゃん」

ξ゚听)ξ「兄さん、いるんでしょ、そうなんでしょ!?」


 声を張り上げる。


ξ゚听)ξ「ねえ、もういいよ、出てきて! 私に何かあるんでしょ?」

ξ゚听)ξ「電話とれなかったもんね。普段から喧嘩だってしたし」

ξ゚听)ξ「でも、でもさ、トソンにまで怪我させるの、違うよ!」

ξ )ξ「だから兄さん、お願い、こたえて……」

.

33 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:32:37 ID:0Znl/ILg0


 ふわりと、後ろから抱きすくめられた。


( 、 トソン「ツンちゃん」


 トソンの声がすぐ傍で聞こえる。


( 、 トソン「ネーヨさんは……あなたのシラネーヨ兄さんは、死んだんです」

ξ )ξ「……でも、今、いる」

( 、 トソン「ええ。そこの、骨壺の中に」


 前を見て、と囁かれる。
 白い、木箱。


ξ )ξ「……そんな、小さい所じゃないわ。今だって、ほら、部屋が――」

( 、 トソン「ツンちゃんは、まるでネーヨさんが生きてるみたいに話をします」

ξ )ξ「……い、」

( 、 トソン「いるかもしれない。でも、生きてるのは、違う」

(゚、゚トソン「言って。ネーヨさんは、どうなったのか」


 トソンの声は、優しく――決して無言を許さない強さを持っていた。

.

34 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:34:44 ID:0Znl/ILg0

ξ )ξ「……」

(゚、゚トソン「……なら、あなたのお兄さんは、どんな人でしたか」

ξ )ξ「にい、さん」


         ( ´ー`)


ξ )ξ「間抜けで、寂しがり屋で……」


    ξ・凵E)ξつ⊂(´ー` )


ξ )ξ「のんびりしてて、その癖、妙な所で変な気遣いして……」


          ( *´ー`)∂


ξ )ξ「……私を」


           (  ー )


ξ;凵G)ξ「っ……私たちを、置いて……死んじゃった」


 二度と話せない、会えない、顔も見れない。


ξ;凵G)ξ「馬鹿な、人よ……!」

.

35 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:36:16 ID:0Znl/ILg0


 トソンの腕に力が籠る。
 その腕に縋って、顔をを埋めた。
 あたたかい。

 兄さんは、死んだ。
 ああ、何だ。
 そんなことも私は、知りたくなかったのか。


 ――何かが、頭を撫でる。
 トソンと全く違う、ひんやりした不思議な感覚。


ξ;凵G)ξ「にいさん」


 そして、部屋の揺れは、ぴたりと止まった。

.

36 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:38:15 ID:0Znl/ILg0


( 、 トソン「本当……馬鹿な人、ですよね」

ξ゚听)ξ「……うん」


 腕を解いて、トソンに向き合う。


(゚、゚トソン


 泣いているのかと思ったけれど、目元が赤くなっているだけで、トソンは泣いていなかった。


(゚、゚トソン「落ち着きました?」

ξ゚听)ξ「うん」

(゚、゚トソン「……ちょっとこれは、片づけないとですね」

ξ;--)ξ「あー、うん……」


 色々と物がズレて散乱していた。
 二人で元の位置に戻し、水を拭いてついでに掃除機もかける。

.

37 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:40:20 ID:0Znl/ILg0

ξ゚听)ξ「トソン」

(゚、゚トソン「はい?」

ξ゚听)ξ「ありがとう」

(゚、゚トソン「……いえ」


    【( ´ー`)】


 遺影の兄さんを見る。
 火葬場で見た時と同じ、変わらない、気の抜けた顔。
 もう。
 ――もう、生身の兄さんに会うことは、ないのだ。

.

38 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:42:13 ID:0Znl/ILg0

ξ゚听)ξ「さっき、ね。何か冷たいのが頭に触ったの」

ξ--)ξ「……ほんとにお別れ、ってことかな」

(゚、゚トソン「……」

(゚、゚トソン「ネーヨさんは、『いた』んですね」

ξ゚听)ξ「……うん。『いた』」

(゚、゚トソン「きっと、もう妙なことは起こらないですよ」

ξ゚听)ξ「そうかな」

(゚、゚トソン「ええ」


 トソンがきっぱり言い切るものだから、そうなのだろうと納得してしまった。
 もう、大丈夫なのだ。



 その日から、怪奇現象は、起こらなくなった。


.

39 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:44:13 ID:0Znl/ILg0


 後日、トソンと電話の話をした。


ξ゚听)ξ「結局、何だったのかは分かんないままだけど」

(゚、゚トソン「ツンちゃんが、心配だったんじゃないですか」

ξ゚听)ξ「……うー」

(゚、゚トソン「どうしたんです?」

ξ;*--)ξ「何かハズい」

(゚、゚トソン「照れることないのに」

ξ∩凵ソ)ξ「いや、もう何ていうかさ。ぅぐー……」


 くすくすとトソンの笑う声が聞こえる。
 居た堪れなくない。というか暫く顔を上げられそうにない。

.

40 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:46:00 ID:0Znl/ILg0


(゚、゚トソン「……私も、あの電話が何だったかは分からないんですけど」


 ちらりと横目で見ると、トソンはスマホを取り出していた。
 見ている画面は、恐らく着信履歴。


(゚、゚トソン「ネーヨさんが、心配してくれてたんだって、思うようになりました」

ξ∩凵ソ)ξ「うん。そだね」

(゚、゚トソン「……いつまでそうしてるんです?」

ξ゚听)ξ「ぶっちゃけこの態勢、ちょっと疲れてた」

(゚、゚トソン「ですよね」

ξ゚听)ξ「私も」

ξ゚听)ξ白「結局なに言いたかったのか分かんないけど、
        また変な気遣いだったんだろうなって思うことにした」

.

41 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:47:43 ID:0Znl/ILg0


 着信履歴。
 今、残っているのは兄さん。そして、今日待ち合わせする時に掛かってきた、トソン。
 見上げると、兄さんの間抜け面みたいな雲があった。


ξ゚听)ξ「ばぁか」


 呟いて、立ち上がる。


ξ゚听)ξ「ね、何か甘いもの食べに行かない?」

(゚、゚トソン「いいですね。持ち帰りにして、一緒に勉強しましょうか」

ξ;゚听)ξ「ええー、お店で食べてこうよー」

(゚、゚トソン「受験、もう半年ないんですから。第一志望、A判定貰えてます?」

ξ;--)ξ「うっ」

(゚、゚トソン「私も教えますから」

ξ゚听)ξ「はぁ。しゃーない、頑張るか」

(゚、゚トソン「ええ、頑張りましょう」

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42 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:49:26 ID:0Znl/ILg0


 もう、着信履歴を消すことはない。
 いつか自然に埋まって、流れていくまで残り続けるけれど。
 番号だって暫く、もしかしたらずぅっと消せないかもしれないけれど。


ξ゚听)ξ「よっし、行こ!」

(゚、゚トソン「何にしましょうか」


 思いは消えないから。
 今、ここにいるのは、私たちだから。

 だから、大丈夫だよ、兄さん。


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43 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:50:17 ID:0Znl/ILg0




ξ゚听)ξ消せない番号のようです



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44 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:51:17 ID:0Znl/ILg0







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45 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:52:35 ID:0Znl/ILg0



 恋人が、死んだ。
 優しい、大らかな人だった。



('A`) 川 ゚ -゚)


 葬儀で会った彼の両親は、彼と同じように優しく、温かだった。


ξ゚听)ξ


 そして、私と同い年の妹も。
 彼――ネーヨさんと同じように、私を受け入れてくれた。

.

46 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:54:26 ID:0Znl/ILg0


 彼女――ツンちゃんは少し口が悪くて、でも悪意を含まない照れ隠しのようなもので、一緒にいて心地よかった。
 死んだ兄の恋人など、扱いに困るだろうに、普通に接してくれている。
 ツンちゃんとは、ネーヨさんの話をよくした。
 当然といえば当然だったけれど――少し、不可解な部分が出てきた。


ξ゚听)ξ「それでね、何回も同じ場所で頭ぶつけて、毎度手当する私の身にもなれって話よ」


 最初はほんの少し違和感を覚える程度だった。
 ただそれが積み重なっていく内に、その違和感は増々はっきりしていく。


ξ゚听)ξ「兄さんったら、幾つになっても子供みたいなのよね」


 まるで、ネーヨさんが生きているような口ぶりなのだ。
 話す内容はそのものは思い出話だ。なのに口調は、ついこの間あったことのようだった。


 そして、あの日。
 ネーヨさんからの電話の話をしてから――はっきりと、変わった。
 ツンちゃんが取れなかった電話、壊れたケータイから私に掛かってきた電話。
 偶然だと、私もツンちゃんも、言い聞かせて。

.

47 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:56:37 ID:0Znl/ILg0


□(゚、゚トソン


 消せない番号と履歴を眺める。
 暫くそっちいけない、と言ったネーヨさん。
 確かにネーヨさんの声だった。あれは、どういう意味だったのか。
 彼にはいく所がある、だから私の所へはいけない、単純に解釈するならそうなるのだけれど。


ξ゚听)ξ「……最近、物音がするの」

(゚、゚トソン「私の家も……時々」


 電話の話をしてから、話題は奇妙な現象についてが多くなった。
 事実、ツンちゃんの家ではかなり頻繁に起こっているようだし、私の家でも時々ある。
 ツンちゃんのお父さんは、怪我をしたそうだ。
 ――電話の話は、お互い出せなかった。

 それでも尚、ネーヨさんのことを話すツンちゃんの口調は、変わらなかった。

.

48 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 17:58:44 ID:0Znl/ILg0


(゚、゚トソン(……よし、時間ぴったりに着きそう)


 ツンちゃんとの待ち合わせに向かう。
 途中、不意に足を取られた。
 転ぶ。
 右腕が、下に、


(゚、゚;トソン「っ」


 がくん、と左手に強い力が掛かる。
 強引に体勢が戻されて、けれどバランスは取りきれずに転んでしまう。
 足が痛い。多分、捻挫だろう。
 左手と右手を見比べる。
 手形のような痕が、くっきりついていた。

 でも――利き腕は、無事だった。


.

49 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:00:49 ID:0Znl/ILg0

ξ゚听)ξ「……兄さん、なの?」

(゚、゚;トソン「っツンちゃ、」

ξ゚听)ξ「兄さんなのかな。寂しがり屋だもんね」

(゚、゚;トソン「ツンちゃんっ」

ξ゚听)ξ「でも」


 私の腕を見たツンちゃんは、浮かされたように言葉を紡いでく。
 その目はどこを見ているのか。


ξ )ξ「父さんや……トソンにまで、怪我させるなんて、そんなの」

(゚、゚;トソン「違いますよ! きっと、ただの偶然です」


 駄目。そうじゃない、違う。


ξ )ξ「だって」(゚、゚#トソン


      「いるんだもの」

   「ネーヨさんはそんなことしません!!」


 ツンちゃんの声をかき消すように叫ぶ。
 目の焦点があって、ようやくこちらを見てくれた。
 ぎゅっと、抱きしめる。

 ネーヨさんはそんなことする人じゃない。ツンちゃんが一番知っている筈なのに。
 ツンちゃん。
 あなたの中で、ネーヨさんはどうなっているの?

.

50 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:02:37 ID:0Znl/ILg0


□(゚、゚トソン


 未だに残るネーヨさんの番号。
 消せない。


( ´ー`)『ほら、卒業までに何かあるかもしれないし。卒業したら、ちゃんと紹介したいんだーヨ』

(゚、゚トソン『……私が心変わりするかもって意味ですか?』

( ´ー`)『そうじゃ……や、まあ、そういう可能性もなくは』

(゚、゚トソン『ネーヨさん』

( ;´ー`)『…………あの、ごめん、言い方悪かったーヨ』

(゚、゚トソン『そうですね』

( ;´ー`)『いや……うん、ごめん。
      でも卒業したら絶対紹介するし、トソンのご両親にも挨拶に行くーヨ』

(゚、゚*トソン『はい』

( *∩ー∩)、『ぅぐ……何か、照れるな』

(゚、゚*トソン『ふふ』

( ´ー`)『……ツンに会うことがあったら、仲良くしてくれると嬉しいヨ。意外と繊細だから』

.

51 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:04:11 ID:0Znl/ILg0


 何故か、寂しさを覚えた。
 ネーヨさんの言い方は確信している響きがあった。
 今思えば、その場に自分がいないのが分かっているような。


□(゚、゚トソン「……ネーヨさん」


 ある可能性を、思いつく。
 馬鹿みたいな可能性。でも、私はもう、怪奇現象に遭遇している。
 ならば、その可能性を調べてみようじゃないか。

 図書館、本屋、ちょっと怪しげな占い師。
 思い至った可能性が少しずつ確信に変わっていく。
 ツンちゃんに連絡をとって、休日にお邪魔することにした。


□(゚、゚トソン「ネーヨさん」


 あの電話は、私を気遣うものであると同時に――私を頼るものだったと、思っていいんですね?


.

52 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:05:55 ID:0Znl/ILg0


ξ゚听)ξ「いらっしゃい」


 ツンちゃんはいつも通りに迎えてくれた。
 私の怪我を案じてくれるのもいつも通り。
 仏壇に、と言うと、少し躊躇ってからツンちゃんは頷いた。


人(-、-トソン


 ネーヨさん。
 私はあなたが好きでした。
 あなたのご両親にもよくして頂いて、ツンちゃんとは仲良くなれたと思います。
 今、私は――ツンちゃんが、とても大切です。
 だから。

.

53 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:07:55 ID:0Znl/ILg0


(゚、゚;トソン「こ、れは」

ξ;゚听)ξ「い、今までより、強い……」


 響いて、揺れる部屋。


(>、<トソン「きゃっ」


 花瓶が倒れ、ひんやりした何かが私の身体を引いた。


ξ;゚听)ξ「――ッ」


 ツンちゃんが息を呑む。


ξ゚听)ξ「――兄さんっ!」

(゚、゚;トソン「つ、ツンちゃん」

ξ゚听)ξ「兄さん、いるんでしょ、そうなんでしょ!?」

ξ゚听)ξ「ねえ、もういいよ、出てきて! 私に何かあるんでしょ?」


 ツンちゃんが必死に声を上げる。
 私の心配をしてくれる、優しい友達。

.

54 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:09:04 ID:0Znl/ILg0

ξ゚听)ξ「電話とれなかったもんね。普段から喧嘩だってしたし」

ξ゚听)ξ「でも、でもさ、トソンにまで怪我させるの、違うよ!」


 どんどん声が泣き出しそうになっていく。
 だから、私は。


ξ )ξ「だから兄さん、お願い、こたえて……」


( 、 トソン「ツンちゃん」


 私は、ツンちゃんを――繋ぎ止めてみせる。

.

55 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:10:51 ID:0Znl/ILg0


( 、 トソン「ネーヨさんは……あなたのシラネーヨ兄さんは、死んだんです」

ξ )ξ「……でも、今、いる」

( 、 トソン「ええ。そこの、骨壺の中に」

ξ )ξ「……そんな、小さい所じゃないわ。今だって、ほら、部屋が――」


 部屋はまだ震えている。
 ツンちゃんの身体の震えと同調しているみたいに。


( 、 トソン「ツンちゃんは、まるでネーヨさんが生きてるみたいに話をします」

ξ )ξ「……い、」

( 、 トソン「いるかもしれない。でも、生きてるのは、違う」


 そう、いるかもしれない。
 いや――いるのだと、この瞬間私は確信していた。
 でも違うのだ。
 ツンちゃんとネーヨさんは、もう、違う場所にいるのだ。

.

57 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:13:11 ID:0Znl/ILg0


(゚、゚トソン「言って。ネーヨさんは、どうなったのか」


 ツンちゃんは答えない。
 答えられない。


(゚、゚トソン「……なら、あなたのお兄さんは、どんな人でしたか」

ξ )ξ「にい、さん」


 ぽつりと、零れる。


ξ )ξ「間抜けで、寂しがり屋で……」


          ( ´ー`)


ξ )ξ「のんびりしてて、その癖、妙な所で変な気遣いして……」


         ( ´ー`)v(゚、゚トソン


ξ )ξ「……私を」


           (  ー )


ξ;凵G)ξ「っ……私たちを、置いて……死んじゃった」


 ツンちゃん。 


ξ;凵G)ξ「馬鹿な、人よ……!」

.

58 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:13:56 ID:0Znl/ILg0


 ああ。ようやく。
 ツンちゃんが泣いている。
 ツンちゃんが――ネーヨさんを、死んだと、言った。


ξ;凵G)ξ「にいさん」


 そして、部屋の揺れは、ぴたりと収まった。


.

59 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:15:54 ID:0Znl/ILg0


 私が行き着いた仮説は、まず幽霊がいるということを前提に、
 ――いわゆる超能力というもののせいではないか、ということだ。
 自分でも馬鹿なとは思うけれど、幽霊を前提にしている時点で、もう大概何でもいい気はしている。
 PSI、サイとも言うらしい。

 ネーヨさんは、予知能力のようなものを持っていたのかもしれない。
 だから卒業するまで私の両親に会おうとしなかったし、私を紹介することもなかった。
 もしかすると、自分が亡くなった後、ツンちゃんがどうなるかまで。

.

60 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:17:17 ID:0Znl/ILg0


 ツンちゃんは、ネーヨさんの死を認められなかった。
 そこに『いる』のだと、足音や物をずらす――ポルターガイストを起こして逆説的に証明していたのだ。
 ただし、無意識に。

 それが加速したのは、電話の件を話してからだ。
 ツンちゃんは『いる』のだと確信した。だから、呼応してポルターガイストも酷くなった。
 お父さんや私の怪我は――偶然か、暴走してしまった結果なのだと思う。

 そしてもう一つ。
 私を掴んだ手。
 ……きっとあれは、本当にネーヨさんだったのだ。

.

61 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:20:05 ID:0Znl/ILg0


 秋晴れの空の下、私とツンちゃんは電話の件を話題に出した。


ξ゚听)ξ「結局、何だったのかは分かんないままだけど」

(゚、゚トソン「ツンちゃんが、心配だったんじゃないですか」

ξ゚听)ξ「……うー」

(゚、゚トソン「どうしたんです?」

ξ;*--)ξ「何かハズい」

(゚、゚トソン「照れることないのに」

ξ∩凵ソ)ξ「いや、もう何ていうかさ。ぅぐー……」


 ああ、照れ方が同じだ。
 堪えきれずに笑うと、ツンちゃんは更に顔を覆った。

.

62 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:22:22 ID:0Znl/ILg0

(゚、゚トソン「……私も、あの電話が何だったかは分からないんですけど、
     ネーヨさんが、心配してくれてたんだって、思うようになりました」

ξ∩凵ソ)ξ「うん。そだね」

(゚、゚トソン「……いつまでそうしてるんです?」

ξ゚听)ξ「ぶっちゃけこの体勢、ちょっと疲れてた」

(゚、゚トソン「ですよね」

ξ゚听)ξ「私も」

ξ゚听)ξ白「結局なに言いたかったのか分かんないけど、
        また変な気遣いだったんだろうなって思うことにした」


 そう。気を使うなら、伝言でも残してあげればよかったのに。
 でも、いいのだ。
 それが、私たちが好きなネーヨさんだから。
 ツンちゃんを心配して、私を心配して、そして頼ってくれたネーヨさん。


ξ゚听)ξ「ばぁか」


 ツンちゃんが呟いて、立ち上がる。
 あの日、『いた』とツンちゃんは言った。
 もう、思い出を語っても、そこに引きずられることはない。

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63 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:23:31 ID:0Znl/ILg0

ξ゚听)ξ「ね、何か甘いもの食べにいかない?」

(゚、゚トソン「いいですね。持ち帰りにして、一緒に勉強しましょうか」

ξ;゚听)ξ「ええー、お店で食べてこうよー」

(゚、゚トソン「受験、もう半年ないんですから。第一志望、A判定貰えてます?」

ξ;--)ξ「うっ」

(゚、゚トソン「私も教えますから」

ξ゚听)ξ「はぁ。しゃーない、頑張るか」

(゚、゚トソン「ええ、頑張りましょう」


 まだツンちゃんに仮説を伝えてはいない。
 仮説は仮説だし、当たっていたとしたらツンちゃんは気に病むだろう。
 伝えるのなら、もう少しだけ時間をおいて。


ξ゚听)ξ「よっし、行こ!」

(゚、゚トソン「何にしましょうか」

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64 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:25:03 ID:0Znl/ILg0


 スマホに残る番号。
 いつか、掛けてみようか。
 使われていないとアナウンスされるか、知らない人に繋がるか。
 それできっと、さようなら。

 もしもあなたに繋がったら――ツンちゃんと一緒にこう言ってやろう。


 『大丈夫だから、さっさと成仏してよね』


 何の甘味にしようかツンちゃんと話しながら、自然と小さな笑みが零れていた。


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65 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:26:04 ID:0Znl/ILg0



消せない番号のようです(゚、゚トソン


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66 名前:同志名無しさん[] 投稿日:2014/08/17(日) 18:27:47 ID:0Znl/ILg0


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