405 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:22:46 ID:CbtiSKSQO


  .,、
 (i,)
  |_|



( ・∀・)廃病院のようです

407 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:23:33 ID:CbtiSKSQO

 馬鹿は肝試しが好きだ。

 御多分に漏れず、俺は友人と共に、深夜の廃病院なんぞに忍び込んだ。



( ・∀・)「ここは……小児科かね」

( ^Д^)「汚れてんなー」

 病室を覗いてみる。
 ベッドのマットレスが破けていたりゴミが放置されていたり、
 窓やテレビの画面が割られていたり──といった有り様だった。

 床にぬいぐるみが転がっていることから、子供用の部屋であったのが窺える。

( ・∀・)「おにいちゃあああん、あそんでえええ」

( ^Д^)「気持ちわりィ声」

 俺が裏声で脅かすと、友人、プギャーはげらげら笑って部屋に足を踏み入れた。
 俺もプギャーも少々アルコールが入っている。

408 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:24:19 ID:CbtiSKSQO

( ・∀・)「お」

 ベッドの脇に、懐かしい特撮ヒーローの人形が落ちていた。
 拾い上げるために腰を屈める。


 ──ぽん、と、遠くで音が鳴った。


 屈み込んだ姿勢のまま、俺は、今の音について思考を巡らせた。

 馴染みのある電子音だった。
 日常でよく聞くような。
 何の音だっけ。

 考えていると、また。ぽん。遠くから。
 さっきより、いくらか近く感じられた。

(;・∀・)「なあ、プギャー……」

(;^Д^)「あれってエレベーターの音か?」

 そう。それ。
 エレベーターが到着したときの音。
 バイト先の居酒屋があるビルで使われているそれと、よく似ている。

 結論が出ると同時に、また鳴った。
 近付いている。
 上の階から、エレベーターが降りてきているのだ。

409 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:24:49 ID:CbtiSKSQO

 俺達は病室の入口から顔を出し、右を向いた。
 廊下の先にエレベーターがある。
 真っ暗な筈なのに、不思議と細かく観察出来る程度には視界がはっきりしている。

 「4」の数字が光っていた。

 ここは3階だ。
 エレベーターはすぐ上の階にいる。

(;・∀・)「電気通ってねえのに、何で動いてんだ」

(;^Д^)「し──知るかよ」

 「4」が点滅し、消える。
 「3」に光が灯った。

 来た。

 ──ぽおん。
 到着を知らせる音が、大きく響いた。

410 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:25:56 ID:CbtiSKSQO

 息を潜め、2人で身を隠すようにしながらエレベーターを注視する。

 扉が開いた。

(;^Д^)「……は……」


 男が立っている。

 異常に背が高い。

 真っ白な顔に、てんでばらばらな方を向く大きな目がついている。
 ぎりぎりときつく歯を食い縛っていて、口の端から涎が垂れていた。


(;・∀・)(な──)

 胸が痛むほど心臓が跳ねた。

 男を見た瞬間に、全身が総毛立つ感覚に襲われた。

 ──怖い。

 すぐに顔を引っ込める。
 壁に凭れ、胸を押さえた。
 隣を見れば、プギャーも同じようにしていた。

411 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:27:14 ID:CbtiSKSQO

(;・∀・)「な、何だあれ……何だあれ……」

(;^Д^)「人間か? 生きてんのか? 何にせよヤバそうだけどよ」

(;・∀・)「うん……」

 俺達は過去にも何度か肝試しをしている。
 幽霊に会えたことはないが、頭のイッた輩には数回遭遇した。

 だが。いま見た「あいつ」は、そういった異常者とも、どこか違っている。
 どこがどう、と説明も出来ない。

 ともかく、関わってはいけないのは確かだ。

 エレベーターが下の階に行ったら、奴に見付からないようにこっそり逃げ出そう──
 身を縮こまらせ、それを待つ。


 けれど、エレベーターの動く気配がない。

 嫌な予感がした。

412 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:28:05 ID:CbtiSKSQO


 ──ぺたり。


 素足で床を踏む音が聞こえて、背筋が凍る。


(;・∀・)(エレベーターから降りた……? 廊下にいるのか!?)

 先程の電子音の間隔からして、奴は、他の階ではエレベーターから降りていなかった筈。
 なのに、どうしてこの階では。

 まさか俺達に気付いたのか?

 悲鳴が出そうになって、手を噛んだ。
 そろそろと、這うように移動する。

(;^Д^)「モララー?」

(;・∀・)「ひとまず隠れよう」

 ともあれ、今、この部屋からは出られない。
 かといって壁際でじっとしてもいられないだろう。

 いくつかあるベッドを見比べ、入口に一番近いベッドの下に潜り込んだ。
 プギャーはその隣のベッド。

413 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:28:47 ID:CbtiSKSQO

 男は、なかなか現れなかった。

 ゆっくり、ゆっくり、ぺたぺたと足音が近付いてくるのみだ。

 いっそ、一か八か、飛び出していって逃げてしまおうか。そう思えてきた頃、
 ようやく男の足が、開け放された入口の前に見えた。

 足はゆっくりと通りすぎていく──いや。
 通りすぎていこうとした。

 俺の視線の先、その足は2歩進んだところで止まったのだ。

(;・∀・)「……っ」

 ──入ってきた。
 重心の偏った妙な歩き方で、室内を進む。

 俺は恐怖と驚きで、一瞬、息を深く吸い込んでしまった。
 埃も一緒に吸い込む。
 喉がちりちりして、咳が出そうになった。

 駄目だ。堪えろ。今ここで咳なんかしたら、すぐに見付かってしまう。
 息を止める。しかし喉を内側から擽られるような刺激は増すばかりで、限界はすぐ目の前だった。

414 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:29:27 ID:CbtiSKSQO

 涙が滲む。生理的なものか、恐怖のためか。
 左手で首を押さえる。何の効果も得られない。
 ああ、もう、無理だ。

 ひゅう、と俺が先程よりも強く息を吸い込んだ、その瞬間。


(;^Д^)「──うおおああああああ!!」


 プギャーが叫び、ベッドから這い出した。
 すぐに立ち上がって病室を飛び出していく。

(;^Д^)「外! 警察!」

 単語を2つ吐き出して、それからまたプギャーは叫びながら走っていった。

 男が踵を返す。
 相変わらず重心の偏った、そのくせやけに素早い足取りでプギャーを追う。

 プギャーの声と足音が遠ざかっていく中、俺は1人取り残された。

415 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:30:02 ID:CbtiSKSQO

(;・∀・)「……げほっ、げほ」

 とりあえず咳をして喉をすっきりさせ、恐々、ベッドの下から出る。

 ──外。警察。
 あれは俺に向けての発言だろう。

(;・∀・)(外に逃げて、警察を呼べってことか)

 「あれ」が警察でどうにかしてもらえる存在なのかは分からないが、
 迅速に駆けつけてくれる第三者の介入は、たしかに必要かもしれない。

 慎重に廊下を窺う。
 誰もいないのを確認し、病室から出た。

 情けないことに、足が震えて走れない。
 出来る限りのスピードで階段へ歩いていった。

 エレベーターは開きっぱなし。
 パネルも、エレベーター内も、光は既に無い。動くようには思えなかった。

(;・∀・)(何で、さっきは……)

 湧き上がる疑問は恐怖をも齎してくるので、俺は何も考えないことにした。
 ともかく今は、一刻も早く外へ。

 階段を下りる。
 しかし、踊り場に差し掛かった辺りで足を止めた。

416 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:31:27 ID:CbtiSKSQO

「……ぁああああ!!」

 階下から、プギャーの大声と足音が響く。
 奴を引き付けるために叫んでいるのだろう。ということは、奴はまだプギャーを追っている。

 差し迫って問題があるとすれば、こっちに近付いていることだった。

(;・∀・)(こっちは駄目か)

 このまま下りれば、多分プギャーと鉢合わせる。
 そうしたら、彼の努力も虚しく2人で逃げ回る羽目になってしまう。

 俺は慌てて引き返した。別の階段から行こう。
 ここは3階。高さを考えると、窓から飛び降りるのも難しい。
 1階へ下りないことには始まらないのだ。

 焦りが足を動かす。いつもの調子とは行かないが先程よりはマシだ。
 長い廊下を真っ直ぐ進む。角を曲がる。
 暗くて、どこに階段があるのかいまいち分からない。

(;・∀・)(……上がってきた!)

 プギャーの声が3階に上がる。

 あの階段は4階へは繋がっていない。
 そしてあそこからは、いま俺が進んできた廊下くらいしかマトモな逃げ道がない。

 きっと、こっちに来る。

417 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:32:10 ID:CbtiSKSQO

(;・∀・)(ええと……)

 俺は走った。階段が見付からない。
 背後からプギャーの声が近付く。
 いずれ追いつかれるだろう。それは俺のためにもプギャーのためにもならない。

(;・∀・)(一旦隠れよう!)

 そうするしかあるまい。

 近くの病室に飛び込む。
 316号室、というプレートが目に入った。
 他の病室よりは、比較的荒らされていない。あくまでも比較的。

 扉を閉め、背を預けるようにして座り込む。

 しばらくすると悲鳴と足音が病室の前を通り過ぎていった。
 足音は2人分。プギャーと、あの男の。

 大して走っていないのに、疲労が凄まじい。
 心臓がばくばくと跳ね回り、呼吸は一向に穏やかにならなかった。

 むりやり頭を働かせる。これからどうする。闇雲に動いても、今のようなことになりかねない。
 プギャーはいつまでも走っていられない。
 すぐにでも助けを呼ばないと。

 なら、いっそ、外に出るのは後回しにしよう。
 身を隠しながら警察の到着を待てばいい。

 そう判断し、ポケットから携帯電話を出した。

418 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:33:05 ID:CbtiSKSQO

(;・∀・)「……あ?」

 画面は真っ暗だった。
 電源を入れる動作をしても、反応がない。

(#・∀・)「──くそっ!」

 携帯電話を床に叩きつけ、俺は体を丸めた。苛立ちと不安を抑え込む。
 電池切れ。故障。いずれにせよ、何だってこんなときに。
 最悪だ。

 やはり外に出る必要がある。
 たしか病院の近くに電話ボックスがあった筈。
 あそこに行けば通報できる。

 俺は、割れていない窓ガラスを見遣った。
 上手いこと足場になるようなものが外にあれば、窓から逃げられるのだけど。

 そろそろと移動し、窓に手をかける。

(;・∀・)「……ふっ! く、うう……」

 ──開かない。
 鍵は掛かっていない。窓をスライドさせれば開く筈だ。なのに全く動かない。

419 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:33:42 ID:CbtiSKSQO

(;・∀・)「ふざけんなよ、くそっ……」

 ベッド脇の椅子を持ち上げる。
 少し躊躇してから、思いきり振り下ろした。

 重たい衝突音はあったが、手応えがまるで無かった。

 何度試しても、割れやしない。
 やがて俺は椅子を転がし、膝をついた。



 ──ぴりり、と。
 響いた甲高い音に、肩を跳ねさせた。

 ぴりり。2回、3回。
 日常で馴染みきった音が、背後から聞こえる。

(;・∀・)「……なんで……」

 携帯電話が鳴っている。
 さっきは動かなかったのに。

 呆然としていた俺は、ようやく我に返ると携帯電話に飛びついた。
 プギャーの名前が表示されている。瞠目し、反射的に電話に出る。

420 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:34:15 ID:CbtiSKSQO

『よう』

(;・∀・)「プギャー! お前大丈夫かよ?」

『ああ、撒いたっぽい』

(;・∀・)「そっか……」

『おまえ今どこ?』

(;・∀・)「悪い、まだ病院にいるんだ……。
      ──なあ、外に出るより、どっかに隠れて通報してさ、警察待とうぜ」

『そうだな、ひとまず合流しようぜ。どこにいる?』

(;・∀・)「ええと……ちょっと待ってな。
      えー……316号室だ」

『316号室』

421 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:35:33 ID:CbtiSKSQO

(;・∀・)「おう……。……大丈夫か? 俺がお前の方に行こうか?」

『いや、俺が行くよ』

(;・∀・)「そ、そうか。悪いな、俺もちょっと怖くて……お前から来てくれるなら助かる」

『316号室』

(;・∀・)「うん……なるべく急いで頼むな」

『316号室』

(;・∀・)「……プギャー?」

『316号室』

(;・∀・)「おい、何だよ」

『316ごウしつ』

(;・∀・)「……おい」

『316ごうしつ、316、3、16、』

 ──プギャーの声が歪み、震え、低くなる。

 それは既に、彼の声ではなくなっていた。

『316ゴウシツ、行く、そっち行く、今から、316、しつ、』

422 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:36:14 ID:CbtiSKSQO

(; ∀ )「──!!」

 携帯電話を放り投げる。
 喉がからからに渇いていて、ひい、と引き攣れた声が呼吸に混じった。

 今のは。電話の向こうにいたのは。まさか。

 316、316と声が吐き出され続けている。
 手を伸ばして通話を切ろうと試みたが、さっきみたいに、どこを触っても反応がない。

 床に転がる電話をそのままにして、俺は部屋を出るため扉の把っ手を握った。

 ──それと同時に。


『310』


 電話の言葉が変化した。

 何故、と考える間もなく、今度は違う音が耳に入り込む。

 ぺたぺた。足音。廊下、すぐ近くから。

423 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:36:56 ID:CbtiSKSQO

『311』

 ぺたぺた。足音が移動すると、電話の声も数字を変えた。
 意味するところを悟り、俺はへたり込む。

『312』

 近付いてきている。
 わざとらしく、ゆっくりと。

 足音が進むにつれ、番号も進んでいく。
 ついに、315、の言葉と共に、足音がすぐそこまで迫った。

 俯く。力の入らない手で、把っ手を押さえる。
 足音は、この病室の前で止まった。

425 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:37:49 ID:CbtiSKSQO

 長い間、誰の声も響かなかった。
 俺の死にそうに掠れた呼吸音が聞こえるだけで。

 耐えられなくなった。
 顔を上げた。


 扉に嵌め込まれた、細い磨りガラス。
 その向こうに人がいる。
 べったり張りついていて、不透明な筈のガラス越しでも、その姿は大体見えた。

 真っ白な顔と大きな目と食い縛った歯。
 口角は限界まで持ち上げられ。


〈……さんいちろくゥ……〉


 その声が背後の電話から聞こえたのか、目の前から届いたのか、分からなかった。



*****

426 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:39:47 ID:CbtiSKSQO



 そうして誰もいなくなった病院の中に、ぽおん、とエレベーターの音だけが響き渡った。





427 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/15(金) 18:40:54 ID:CbtiSKSQO

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