264 名前:名も無きAAのようです[] 投稿日:2014/08/09(土) 18:43:34 ID:C3fXJhsY0

『げんごこう』というお酒を、知ってるかい?


( ^ω^)「……は?」


あぁ、いえいえこんな人気の無い屋台で偶々相席になったとはいえ、
急に馴れ馴れしく話してしまってごめんなさいね
『げんごこう』ですよ、ひらがなで『げんごこう』と書くんです


( ^ω^)「……いえ、知らないですお」


そうですか、そうですか
いえ誰でも良かったんですけどね、そのお酒についてお教えしたくてね
誰か私の隣にでも座ったときにお教えしようと思った次第でございます


  .,、
 (i,)
  |_|
げんごこうのようです
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265 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/09(土) 18:44:31 ID:C3fXJhsY0

ちなみに、貴方はお酒が好きなかたですか?


( ^ω^)「えぇ、先方に振り回されて毎日浴びるように飲みますが、お酒自体はとても好きですお……今日もその帰りにここへ」


あぁ、そうですよね、そうですよね
道理で貴方の顔が赤い訳だ、
ここいらのほのかに赤く光る照明にしてはやけに赤いと思っていたところだ

そうですか、お酒がお好き、なら余計に気を付けたほうが宜しいですね、『げんごこう』には


( ^ω^)「……お酒に気をつけろとは?度数が高いとか?」


いえいえまさか、『げんごこう』はそこいらの日本酒と変わりなく十五度前後でございます
しかしてそれでも度数が高いのには変わりありませんね、へっへっへ

私が気をつけろと言うのは、あまりに美味であるからということです

.

266 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/09(土) 18:45:22 ID:C3fXJhsY0

へぇ、意味が分からないという顔をしなさらないで、これから説明いたしますから


姿は瑠璃色の一生瓶、それに和紙のラベルで素っ気なく『げんごこう』と書いてあるだけですが、
蓋を開けると辺りに豊満で甘美な米の香りが漂います

いくらかの人達はそれだけで満足してしまうらしいですがそれじゃあ勿体無さすぎる、
容器に注ぐと不思議なもんで、見方によっては黄金色に見える光りかたをするんです


それに見とれて飲めぬという方もいるようですが、飾るわけにもいかないでしょう?


ぐいっと喉に通してみれば、先に言った米の香りが口の中いっぱいに広がって、
食べ物を含んでいればその旨みを何倍にも引き上げ、
含んでいなければ身体全てを潤すかのような清涼感に包まれ、後には至福の感情だけが残るんです


どうです?飲みたくなったでしょう?
しかしこれは何処でも手に入る訳ではないんです

今なら携帯電話でも……『すまーとふぉん』と言ったら良いのかね?
それで検索したところでそいつは出てきやいたしません


飲みの席に、そいつは突然現れるんです


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267 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/09(土) 18:46:21 ID:C3fXJhsY0


( ^ω^)「……そんな馬鹿な、酒が独りでに現れるのかお」


そうです、そうです、そのとおりです
飲みの席で、飲みに飲んで、すっかり酔いが回った頃にそいつが現れるのです


( ^ω^)「……酔いが回った頃に飲む酒ほど、何を飲んだが分かりゃしないのに、どうしてそれが『げんごこう』だと分かるんだお?」


へぇ、それをこれから話そうかと思っていたところです
どうして『げんごこう』だと分かるのか、聞けばきっと気を付けるようになりますから


実はその酒『げんごこう』、飲んだが最後、恨みつらみが聴こえて来るというんです

周りの貴方に対しての恨みもよくよく聴こえるようになり、
何より酷いのがあの世の人々の無念が四六時中聴こえるようになるというんですから溜まったもんじゃありません


美味い話には裏がある、旨い酒には毒があるってね、
貴方のように『げんごこう』の話を聞いてくれた方には注意をしていただきたくてね、知ってる私が教えて回っているわけです

知らずに飲んだら大変ですからね、へっへっへ

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268 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/09(土) 18:47:32 ID:C3fXJhsY0


( ^ω^)「……酒が回っている奴に注意も何も無いとは思うけど、気を付けてはおくお」


へぇ、そうしてもらえると助かります
出てきた際は蓋を開けるまでは良いですが、決して飲まないようにしてくだせぇ

あぁ、すいません、語りすぎてしまいましたね、貴方の手に取っていたおでんがすっかり冷めてしまった、直ぐに新しいのを頼みます


( ^ω^)「いえ……良いですお、これを食べたらすぐにタクシーで帰りますから」


そうですか、そうですか、では私も何かつまんでから帰るといたしましょうか


( ^ω^)「……本当に、飲んではいけなんですおね?」


はぁ、『げんごこう』でしょうか?
えぇ、決して飲まないようにしてくだせぇ
決して、ね、へっへっへ


( ^ω^)「……分かりましたお」


.

269 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/09(土) 18:48:42 ID:C3fXJhsY0
………………


あぁ、いつかのお兄さんではないですか
奇遇ですね、またこの人気の無い屋台で会うなんて、あれからどうですか、お元気にしていましたか


(  ω )「……私は愚かでしたお」


あぁ、よく見たら今日はここいらの照明でも顔が白く見える、酔いは回っていないようで


(  ω )「……あの日はまだ、酔いが回ってても何を飲んだか分かる日だった」

(  ω )「だというのに、たしかにそれは突然現れたんですお」


瑠璃色の一生瓶、和紙のラベルで素っ気なく『げんごこう』と書かれた、その酒ですか、あぁ、そうですか、それはそれは


(  ω )「……皆見えていないようで、僕も見えないふりをした」

(  ω )「だけど、気になるじゃないですか?……その香りが、その味が」


あぁ、そうですか
それで開けて、そして飲んでしまったのですか




どおりで、足が無くて、身体がぼんやりと透けて見える訳ですね



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270 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/09(土) 18:50:24 ID:C3fXJhsY0

(  ω )「蓋を開けると、辺りに豊満な米の香りが漂った」

(  ω )「会社の人達は、いい香りだと、とても幸せそうにしていたお」

(  ω )「僕自身もそう思った、そして、もう止める事が出来なかった」

(  ω )「だってそうでしょう?蓋を開けて、はい終わり、ではあまりにも、勿体なかったのだから」

(  ω )「他の人にはどう見えていたのかは分からない、でも僕は、確かにその酒を飲んだ」


(  ω )「幸せだった……身体が溶けてしまいそうな程に恍惚とした絵もいわれぬ感情が駆け巡った」

(  ω )「その酒を全て一人で飲みきり、至福の余韻を残したまま家に帰った次の日から、異変が起きた」

271 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/09(土) 18:52:26 ID:C3fXJhsY0

(  ω )「貴方の言った通り、会社にいれば上司や同僚の、僕に対する恨みが聴こえ」

(  ω )「家では沢山の僕以外の誰かが叫ぶ悲痛や恨みの声」

(  ω )「こうして耐えきれず自殺した今でも、あの世か判らぬ場所から聴こえる恨みの声が鳴り止まない」

(  ω )「どうすれば良いのか、分からないんですお」


そうですか、そうですか、『げんごこう』で死んだ者は皆口々にそう言います
ではお教えいたしましょうか、その苦しみから逃れる術を


あなたが飲んだ『げんごこう』、その魅力を誰か他の方に語ることです


あなたがこの酒について上手に語れば語るほど、酒は味を深め、旨みを増す
その酒を飲んだ相手が至福と感じたその時に、貴方はようやく解放されるのです

『語り酒』の『語』を崩して『言五口』、下らない洒落ではありますが、
私がやっと解放される日が来たので、せめても酒の由来でもお教えしてお別れしましょう

さぁ、さぁ、もう私は消え行く存在ですが、次に『げんごこう』の魅力を聞くは、お兄さんが語るは、誰にいたしましょうか

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272 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/09(土) 18:53:11 ID:C3fXJhsY0

(  ω )




(  ω^)「……」




( ^ω^)「……おや、おや奇遇ですね」




( ^ω^ )「……こんなところでお会いするとは」





「『げんごこう』という酒を、知ってるかい?」






  (
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