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454 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/15(金) 20:23:53 ID:Ejnfr8Xs0
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夏のその日その夜中、内藤という男は夜の山にいた。
滑るように軽快に車を走らせ、或いは取り急いでいるようにも見えるが、
とにかく法定速度を無視した速さで駆けていた。
( ;゚ω゚)
そのハンドルを握る手と足は震えて、
流れる汗は車内を充分冷やしている冷房と関係なく沸き上がる。
どこまでも真っ直ぐに伸びる道路に、内藤は早く終れと願い、
出来れば突然にカーブなどが来ないことを祈った。
本当はそんなことを思っている場合では無いことは分かっている。
分かっているが正面の景色に集中する他無い。
というか、正面以外を見たくない。
何かが、迫って来ている。
それも尋常でない程の気配を放ちながら。
.,、
(i,)
|_|
( ^ω^)道路はつづくよ何処までものようです
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455 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/15(金) 20:24:35 ID:Ejnfr8Xs0
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ここで話は少し戻る。
内藤が車で軽快に山道を上がっていた時だ。
( ^ω^)「道路はつづくーよー、どーこまでもー♪」
内藤は鬱田という友人が倒れたらしいという話を聞き、急ぎ病院に向かうところだった。
不安がる顔をしては友人にも不安が移ると思い、
心配していた気持ちを片隅に押しやり、歌を歌ってごまかそうとした。
ちょうど山を上りきり、先には直線の平坦な道が見えたので、
内藤は『線路はつづくよどこまでも』の歌詞を文字って、頭だけ歌った。
それから本当に道路が上ることなく下ることなく続いてると察したのは、
一分ほどハンドルを切る事を止めた頃だ。
(;^ω^)「……この山、こんなに平坦な道があったかお?」
内藤は山向こうにある大学に行き、そこで一人暮らしをしているが、
何度か実家や鬱田の家に行くため車で戻ることがある。
だが、ここまで長い直線の道があっただろうか。
不思議に思い、一度路肩に停めて外に出てみようか、
と、スピードを少し緩めようとした。
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456 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/15(金) 20:25:16 ID:Ejnfr8Xs0
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( ;゚ω゚)「っ!?」
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457 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/15(金) 20:26:17 ID:Ejnfr8Xs0
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( ;゚ω゚)
……が、スピードは落ちない。
逆にアクセルを踏む足をゆっくりと沈め、どんどん加速させる。
そして最初の時にもどるのだ。
何かの気配は突然襲ってきた。
そしてそれを確認するより前に、脳が逃げろ!スピードを緩めるな!
と警報を鳴らしたので、それに従う他無かった。
実際、内藤の判断は正しかった。
スピードを上げた時から後ろでごうごうと風の音が響き、
その音が唸りをあげ始めたのだ。
いくつもの風の音が混ざり、唸る。
しかも車の後方限定で。
それを必死に引き離そうと内藤はアクセルを踏み倒し続けるが、
音は距離を保ち、追ってくる。直線も未だに変化がない。
それに加えて、対向車の影すらも見えない。
夜中であれど、車の通りはそこそこ多いはずなのに!
と内藤は焦る頭で考える。
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458 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/15(金) 20:27:08 ID:Ejnfr8Xs0
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もうかれこれ五分はアクセルを踏みっぱなしにし、
切らないハンドルを握りっぱなしにしているのに、
そんな状況などなって無いような程になだらかで何処までも真っ直ぐな道路。
ふと、内藤は後ろが気になった。
焦ってはいる。いるが、長いこと同じ状態が続いていたからか、
内藤の心に多少の余裕が出来ていた。
相変わらず脳ミソは警報のオンパレードだが、それにも慣れ、嫌気が差したからかもしれない。
一瞬、正面から目を反らし、バックミラーを覗き見る。
すると、
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459 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/15(金) 20:27:48 ID:Ejnfr8Xs0
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顔とも呼べぬいくつもの何かが、
内藤に向けて必死に手を伸ばしあっていた。
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460 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/15(金) 20:28:30 ID:Ejnfr8Xs0
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( ;゚ω゚)「うわああああああああああああああああああああああ!!!」
バックミラーの光景から目がはなせなくなり、ハンドルを握る手がぶれる。
車体は大きく揺れ、対向車線に飛び出た事で内藤は意識と視線をとり戻し、
大きく蛇行しつつも、何とかぶつけることなく体制を立て直す。
その後はいやだ、死にたくない、と何度も連呼して、
もう正面から目を反らす様子は無い。
それもそうだ。
内藤が見たものは普段絶対見ないもの。
半透明の血の気が全く無い顔ばかりだったからだ。
目玉が無いもの、皮膚が剥がれているもの、顔がくり抜かれたもの。
それらが口を大きく開け、中には口が裂け、
文字通り口を大きく開けて何かを叫び、
爪や、指や、皮膚が無いその手を我先にと伸ばす事など、
現実ではあっても空想やゲームの中ぐらいだろう。
とにかく内藤はその視線を変えず、ただ前を見ることに集中する。
内藤は内心で前に『何か』が居ないことを本当に感謝していた。
車から、がり、と音が聞こえるまでは。
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461 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/15(金) 20:29:14 ID:Ejnfr8Xs0
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( ゚ω゚)「!!」
音が聞こえたのは車の運転席側、側面後方。
少し時間を置いてから、がり、と再び音がする。先ほどより、近い。
がり、と音がする。
音は、運転席の側まで来ている。
今度は、ぎっ、という引っ掻いた音。
内藤の耳元で鳴る。内藤はただ前を見る。
ずり、という音と、嫌がおうにも視界に入ってきた『何か』に、視線が向く。
『何か』は裂けた顔で笑い
その手を内藤の首に向けて、伸ばした
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462 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/15(金) 20:30:01 ID:Ejnfr8Xs0
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その時、何処からか吼えるように唸りを上げるエンジンの音が響いた。
音につられ内藤は正面を見ると、大型のバイクが対向車線に現れた。
引き剥がすように煌々と照りつけたライトと一瞬のうちに交差し、その姿を視線で追う。
窓にいた『何か』が居なくなり、気配も消えた事に気づいたのは、
視線を戻した先に見えた、左に曲がる緩やかなカーブを越えた後だった。
( ;゚ω゚)「おわああああああああああああ!!?」
内藤は先ほどの叫びより半ば腑抜けた声で叫びつつ、
アクセルを離し、ブレーキを小刻みに使って、
しばらく対向車線に出たままそのカーブを曲がりきる。
もし対向車線に車が来ていたら即死だった。
内藤はまずそのことにほっとした後、『何か』を振り切ったことに安堵する。
平坦だった道のりは終わりを告げ、緩やかに曲がるカーブと町が見える下りを迎えていた。
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463 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/15(金) 20:30:44 ID:Ejnfr8Xs0
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内藤が後で聞いた話によると、あの山では平坦な道が続くと異界へ招かれる、
という都市伝説があるらしい。
そんなことを知ってるのはごく一部の人間だけだが、
内藤は晴れて都市伝説を体験したごく一部になったわけだ。
とにかく、内藤は急ぎ病院に向かうと、鬱田は帰らぬ人となっていた。
鬱田の両親はおいおいと泣き、内藤には申し訳ない旨を伝えるが、
逆に内藤は鬱田の両親に感謝を述べる。
( ^ω^)「鬱田がいなければ、僕もここにはいませんでしたお」
内藤は思った。
鬱田はバイクをよくイジるのが趣味だったことを。
そして、後からではあるが鬱田の家に訪れた際に、
車庫に見えたバイクで確信した。
あのすれ違った大型バイクは、間違いなく鬱田のものだったことを。
そして内藤は、バイクとのすれ違いざまに、
こちらに向けて手を上げていたのを見逃さなかった。
顔はフルフェイスのヘルメットで覆われて見えなかったが、
あれは間違いなく鬱田であると、内藤は思い、涙をこぼした。
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464 名前:名も無きAAのようです[sage] 投稿日:2014/08/15(金) 20:32:09 ID:Ejnfr8Xs0
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それから葬儀の準備や何やらでしばらく町に残り、
落ち着いた頃に内藤は大学のある山向こうに戻ることになった。
帰りもまた夜中になり、また車で山を上ることに不安を感じる。
がりがりと音のした運転席側の車の塗装が、何ヵ所か傷が付いていたことも不安の中にあった。
だが、それも杞憂に終わり、少し平坦な道を走るとすぐ下り始める。
あいつは、と内藤は思う。
たしか鬱田は、このバイクでいつまでも走り続けたいなどと昔に言っていた。
ならば、きっと今頃あいつはあの平坦な道を独り占めにして、
異界のやつらにバイクの素晴らしさを語り、飽きるまで走っているだろう。
と、山を越えたあと、内藤はぼんやりと考えた。
('A`)「道路はつづくーよー、どーこまでもー……♪」
(
)
i フッ
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十七本目
( ^ω^)道路はつづくよ何処までものようです